2011.07.05
vol.56 緑の響宴

様々に重なる緑の美しさを思うときいつも蘇るワンシーンがある。ロンドンのBBCの近くのフラット。窓の外にはその部屋に立つ人物を引き立てるような緑。淡いシダの色、濃い緑のアイビー・ハニーサークル・・・・フラワースクールで学んだすべてのグリーンがそこにあるような気がして一色ずつ葉の名前を思い出していた記憶がある。

ここはロイヤルウェディングを手がけたシェーン・コノリーのご自宅。レッスンを受けたいという私たちのために彼は自宅に招いてくれたのだった。クリスマスローズ・においスミレ・バラその甘い香りとマジシャンのような手さばきを見ている私たちはまるで酔っているかのようだった。

「ブーケを作る一番大切なことは花のコンディションをブライダルの当日に最高の状態に持っていくこと!」彼のその言葉の通り花たちは完璧に美しい状態だった。

一輪の花も無駄にせず大切に慈しんでアレンジする彼がこの時代のロイヤルウェディングのフラワーデザイナーとして選ばれたことは当然といえば当然なことだったと思える。

偶然にも彼は私と同じロンドンのフラワースクール出身者だった。あのころ学校では月曜日に大きなアレンジを作り翌日は花束、水曜日はテーブルフラワーという風に少しずつ短く使っていき週末はドレスフラワーにして持ち帰った。

アレンジを学ぶのと同じ比重で花を大切に飾り続ける術を学んだ。

校長先生が伝えたかった事を一緒に学んだ花仲間が守り続けている。

無駄にしないのは仕上がったアレンジも同じだ。

「ノブレス オブリージェ」身分の高い人やお金持ちはそうでない人を助けるという考え方は深く浸透している。ブライダルで使われた花も再利用されそうした形で多くの人々に贈られたそうだ。

改めて彼の庭の美しさを思う。そのような形で命を与えられ大切に育まれた緑があの空間で幾重にも色を重ねていたのだ。ロンドンの厳しい冬にも負けずにその色を保っているグリーン。その姿は訪問者の私たちにはまるで緑の響宴のように感じられた。

日英フラワーアレンジメント協会チェアーパースン かわべやすこ